ブラック羽川にゃん!

物語シリーズのヒロインの一人である羽川翼が、ストレス限界に達して怪異障り猫触り猫に心身を乗っ取られる。だが、その容姿は白であり、怪異専門家の忍野メメにその出自と性質を評されて名付けられた。要するに存在本質のイメージは黒ということだ。だが、ブラック羽川の行動は猫のように気紛れであり時に純白である。

物語シリーズをファンタジーかSFかのどちらかに分類するとしたらボクは迷わずSFに分類する。分かりやすい理由としては考察し甲斐があるからだ。一見、吸血鬼をはじめとした怪異という存在が物語全体を支配している作品がゆえにファンタジーに分類するのが妥当かもしれないが、それだとボク的には物語シリーズのポテンシャルをスルーしてしまうことになる。サイエンス・ファンタジーというSFの別のほうのSF言葉もあるらしいが、それはまた物語シリーズを語るにはボク的に違和感がある。サイエンス・フィクションというジャンルがガチで最強である。ファンタジーというぼんやりした言葉には甘えたくはない。

もとより、 読売新聞に書き下ろされたつばさボードにおいて3001年 終局への旅の中に出てくるインテリ定義を羽川に引用させちゃうみたいなことをする西尾維新が創作の根源をSFに求めているように思える。ならば、その作品はSFに間違いない。 


ちなみに、つばさボードのようなショートショートのネタとなっている小説として……

■読売新聞コラボ?書き下ろしショートショートは次の6つ。

◆羽川翼:つばさボード
┗3001年終局への旅:アーサー・C・クラーク
戦場ヶ原と知識や情報について討論する小話。後に自分とのその知識を売ってメメを連れ戻り暦んと扇ちゃんを助けた羽川と対等に会話できてる戦場ヶ原も凄いなあ。

ネタバレ解説、しまうました
ってサイトは面白いね。あとで色々読んでみよう。
西尾維新「つばさボード」のネタバレ解説

あと、つばさボードだけ
読売新聞広告局ポータルサイトというところで公式に読めるんで未読の人は是非。

◆八九寺真宵:まよいキャッスル
┗青い城:L・M・モンゴメリ
★未読
西尾維新「まよいキャッスル」のネタバレ解説

◆千石撫子:なでこミラー
┗ジキル博士とハイド氏 :ロバート・ルイス・スティーヴンソン

西尾維新「なでこミラー」のネタバレ解説

◆忍野忍:しのぶサイエンス
┗わたしはロボット(創元!):アイザック・アシモフ

西尾維新「しのぶサイエンス」のネタバレ解説

◆戦場ケ原ひたぎwith貝木泥舟:ひたぎサラマンダー
┗華氏451度:レイ・ブラッドベリ
この二人のお話はデュエット新曲にのせてアニメ化を特に希望するものだが、物語シリーズにはここに紹介した以外にもショートショートが存在し西尾維新シェフの気紛れコース的に今後も増殖するのだろう。
西尾維新「ひたぎサラマンダー」のネタバレ解説
wiki調べだがショートショートは 2034年頃ぐらいに単行本に纏められるそうだ……アニメ化ダメじゃん!!

◆神原駿河:するがニート 
┗ジャングルの国のアリス:メアリー・ヘイスティングズ ブラッドリー
┗たったひとつの冴えたやり方:ジェイムズ・ティプトリー・Jr.
いやあ、ニートってあのニートって意味じゃなかったんだね。よく考えたら神原がニートってのも少し違うよな。終物語シリーズの後の話はまだ少しだけしか読んでないけど神原がニートになる話ってあるのかなあ。あとティプトリー Jr.のタイトルの付け方とか邦題も含めて西尾維新に大きな影響を与えているような感じはするねえ。
西尾維新「するがニート」のネタバレ解説


■鬼物語皿特典書き下ろしショートショートは次の3つ。

◆神原駿河:するがパレス 
┗赤い館の秘密:A・A・ミルン

◆ 斧乃木余接:よつぎフューチャー
┗モモ:ミヒャエル・エンデ

◆忍野扇:おうぎトラベル 
┗八十日間世界一周:ジュール・ヴェルヌ

以上、合わせて9作品(もしかしたら別のショートショートでも元ネタとなっている小説のタイトルが出てくるお話はあるのかも)があり、『青い城』と『赤い館の秘密』以外はSF臭がプンプンであり、今放映中の続・終物語のキャラクター設定にも通ずるものがある。青い城も赤い館も家族を想起できるので、八九寺ファミリーと神原ファミリーの対比だったりもするのだろうか。神原の『するがニート』はSF小説ファン的にとっては、かなりヤバイ深堀りであり、母親の臥煙遠江との関係も含め、赤い館の秘密と合わせて考察すべきなんだろう。ティプトリー Jr.の母と、神原駿河の母……妄想は尽きない。

さて、話はブラック羽川に戻る。
二面性のあるキャラクターは物語シリーズにはいっぱいいる。中でも分かりやすいのが羽川と神原と千石だ。二面性については他キャラも続・終物語でも語られはするが少々趣きが違う。この三人はお話の展開においても別格であり裏表を結びつける中軸をなす。さらにストレス爆発スイッチにおいてレイニー・デヴィルが介在している神原や、クチナワが介在している千石とは、羽川は事情が違う。ブラック羽川こと障り猫・改が現れるスイッチは100%羽川自身であり障り猫はスイッチ自体には介在していないように見える。障り猫は羽川が裏面を最大限に堪能するために呼び寄せられた単なる道具であって、それを証拠に羽川の知識でカスタムされた。決して障り猫が羽川の知識を吸収したわけじゃない。この辺は忍野メメの見解とは少々違うかもしれない。なのでブラック羽川は招かれた結果でしかなく、ストレス爆発自体については普通の人間として科学的に検証しなければいけない。

神原はレイニー・デヴィルの左手が無かったら暦んを襲うことは無かった。千石はクチナワのささやきが無かったら担任者やクラスメイトにぶち切れることは無かった。だが、羽川の場合は、道路で車に轢かれた猫を拾って葬らなくても、ストレスは遅かれ早かれ爆発したに違いない。シンプルに言い換えるとサイコパスであり潜在犯である。一見、模範的な一般市民であり賢者の風格も感じられるが、よくよく咀嚼すると羽川の言動には狂気含みなものが多い。それを秀才肌の日常言動と片付けるのは早計だろう。だが、羽川は天才肌でもない。天才肌と呼ぶなら羽川以外の他キャラたちのほうが相応しいだろう。煌びやかなエンタメを賑やかす天才キャラたちが騒いでる中で、心に闇を持つ秀才が一人。心に余裕があるように見えて実は最も追い詰められている。貧乏で報われないというのとは訳が違う。義理の父母とはいえ一般家庭の優等生なのに廊下に寝てるヤバイ奴なのである。

つばさボードで、羽川は
さながら飢えてでもいるかのように、
知識や情報を己が体内に詰め込むことに終始する人生を送る私
と表現している。

臨界点ギリギリの羽川を察知したのは障り猫の方だったのではないか?
もとより車に轢かれた猫が発端になってるのには違和感があった。
運命論にしても偶然が過ぎる。

障り猫は羽川の暴発被害を最低限に防いだ白き存在である。

そんな観点で次回は障り猫がどんな存在であるかをSF考察してみたい。